アル・ワールド
マグカップ (ページ4/6)

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僕は名無子にたずねた。

「気にいらなかった?」

このカップの柄も。
そして、僕とペアってことも。

僕の問いかけに、名無子は言下に否定して返す。

「ううん。そんなこと全然ナイよ。すっごく気にいったし、サイとペアなのもホントに嬉しい。それにね」

名無子は、僕を見上げて言葉を続けた。

「サイが私のために選んでくれたんだなぁって思うと、胸がいっぱいになるの。だって、サイは私のこと、たくさんたくさん思って、買ってきてくれたんでしょう?」

そう言われ、僕は、あぁって思う。
キミのことをとっても考えて、僕は買ってきた。
どれがいいんだろう、どれを買ったらキミは喜ぶんだろうっって。

僕はキミのことばっかり考えて選んできたよ。

今まで僕はこんなふうに、誰かのために何かを選ぶなんてしたことなくて、素直に、

「うん」

とうなずくと、キミは、

「ありがとう」

って、本当に幸せそうな顔で笑ってくれた。
なんか、すごく不思議な気分だ。
僕がキミのことを考えて選んだっていうそれだけのことで、キミがこんなに喜んでくれるなんて。
そして、自分が真剣に選んだモノをキミが気にいってくれたってことだけで、僕の気持ちがこんなにも満たされるなんて。
本当に、

不思議な気分だ。

僕は、マグカップの中で揺れるカフェオレを一口飲みこんだ。
口から体に広がる温かさが、僕の気持ちに広がる温かさと重なって、ひどく心地いい。
目の前に視線を落とせば、ベッドに腰掛けた名無子が、両手で包んだカップからコクコクとカフェオレを飲んでいる。
その姿を見ていたら、ペアで使いたいと言っていた女の子たちの気持ちも、少しだけ理解できる気がした。



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