アル・ワールド
マグカップ (ページ3/6)

 bookmark?


「サイーー。お邪魔します!」

名無子が任務の帰りに僕の家に寄った。
僕は名無子を部屋に招き入れ、

「お疲れ。その辺に適当に座ってて」

イスやベッドを指さすと、お茶を淹れに小さな小さなキッチンの一角に立つ。
沸かしたお湯で、簡単にインスタントコーヒーを作り、砂糖とミルクをたっぷり入れて即席カフェオレにすると、それを手に、名無子のほうへと近づいた。

「ハイ、カフェオレ」

僕は、ベッドにストンと座ってる名無子に、左手に持ったマグカップを差し出す。
カップを受け取ると、名無子は嬉しそうに言った。

「あ、マグカップ買ってくれたの?」
「うん」

彼女の手に包まれるカップと、僕の手に握られているそれは、この間あの雑貨屋で買ってきたマグカップだ。
彼女は大事そうに両手でカップを持ち、目の高さまで上げて柄を見ると、今度は僕のカップに目を移してニコッと笑った。

「ふふ、ずいぶんかわいい柄! サイがこんなかわいいカップ選ぶとは思わなかったな。しかもお揃いで使ってくれるなんて、なんか意外!」

意外…?

僕はちょっと首をかしげる。
そう、結局、僕はあの店で女の子たちがかわいいと言っていたマグカップを買ってきた。
それも、名無子が言ったようにペアで。
僕は、自分の手の中にあるマグカップに目を落とした。
僕の目に映るカップの表面には、緑に塗られた草地に赤やピンクの花がピコピコと咲き、その上を二足歩行で散歩している茶色いクマが描かれていて、バックに広がる水色の空にはモコモコとした白い雲が浮かんでいる。
名無子のほうは、クマの代わりに白いウサギが、水色の空の代わりに淡いピンクの空が描かれていた。
たしかに僕のセンスでは買わない代物だろう。

やっぱり、普通に白のシンプルなカップのほうがよかったかな……。

名無子に意外なんて言われ、ふとそんな疑問が頭をよぎる。



(ページ3/6)
-49-
|
 back
select page/71

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -