リアル・ワールド
episode.16 (ページ2/3)
様々な花や苗木を見てまわる中、名無子はやっぱりガーベラの前で足を止めた。
置いてあるガーベラの苗を上から覗き込むようにして見つめる。
「ガーベラ好きだね、ホントに」
「そうなの。特に……」
「キイロ?」
僕の言葉に名無子は嬉しそうに、当たり、と答える。
その姿に、
あぁ、そうだ。
僕は名無子との約束を思い出した。
「この間の絵、描けたよ」
温泉に行く日、描きかけだった花の絵。
アレが出来上がったんだ。
名無子にできたら見せるって約束してたからそう伝えると、名無子はパッと顔を輝かせた。
「ほんと? じゃあ今度見せてくれる?」
「うん、いいよ」
大したことじゃないのに、楽しみ、と言って喜ぶ名無子に、僕はひどく満たされる。
そう、ここはもう、ちゃんと色の溢れた、音の溢れた、感触の溢れた世界だ。
その中で僕は、感情も、衝動も、自分の居場所も手にしてる。
それはきっと、名無子、キミを見つけたからだろう?
僕の部屋の真ん中で、この間まで描きかけだった一枚のキャンバスが、イーゼルの上に乗せられたままで飾られている。
その中にえがかれているのは、キイロのガーベラの花束と、それを胸に抱えた名無子の笑顔。
何もない真っ白な世界で、僕はキミという光を見つけた。
end.
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