リアル・ワールド
episode.16 (ページ1/3)
空の青さが僕の網膜に眩しいくらいに焼き付けられる。
ガーデニング市を前に、僕は野原の周りに林立する木の一本に寄りかかって空を眺めていた。
目の前の野原では、キレイに晴れた空の下、ガーデニング市が開かれている。
大勢の人たちがいろんな花や苗木を楽しげに話しながら見て歩き、時には立ち止まったりして気にいったものを購入していく。
かなりの賑わいだ。
そんな喧騒の片隅で、僕は名無子を待っていた。
前のときは来られなかったガーデニング市に、今日はちゃんとやってきたんだ。
野原の隅っこから木にもたれ、見上げた空は吸い込まれそうな青で、そこを綿飴を千切った様な雲がゆるやかに浮かんでいる。
雲と雲の合間にふっと名無子の笑顔が浮かんだ時、
「サイ!」
人ごみの渦を越えて、名無子の声がした。
目を向ければ、名無子が僕のほうへと駆けてくる。
僕が寄りかかっていた木から身を起こし、彼女に近づいたその時、
「あっ」
名無子が小さな声をあげ、前のめりに転びそうになった。
僕はすかさず腕を出し、彼女の体を受け止める。
「ごめん、サイ」
「大丈夫?」
「うん。ありがと」
彼女を支えながら、
「よく何もないところで転べるね。ドジ」
僕が笑顔でバカにすると、
「だよね」
キミはいつものように明るく笑い返した。
そんな彼女をつかまえるように、僕は彼女の手を握って、
「じゃあ、花、見に行こう」
クイッと名無子を引っ張った。
「うん!」
名無子も、僕のすっかり怪我の完治した左手をしっかり掴んで、僕らは人ごみの中に溶け込んでいった。
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