リアル・ワールド
episode.15 (ページ2/2)
自分が殺されようとしてた時、キミはあんなにも強く笑って見せたのに、僕のこの程度の傷でこんなにも泣くんだね。
「キミを守るって約束したの、忘れたの?」
名無子の濡れた瞳が僕を見上げる。
キミは僕のこんな一言にさらにポロポロ涙をこぼすから、僕はキミをどうしようもなく泣きやませてあげたくて、その表情に吸い込まれるように僕は彼女にキスをした。
ゆっくりと、僕は重ねた唇を静かに離して、そのまま優しく彼女の瞳を覗き込む。
「よかった。名無子に怪我がなくて」
「サイ……」
僕はもう一度、彼女の頬に残る涙をふわりと拭うと、左手に重ねられた名無子の手を静かにはずし、戦うときに投げ捨てた荷物を拾いに立ち上がった。
大きなカバンを手に名無子の前に戻ると、名無子はアッと何かに気づいたようにカバンを開き、勢いよく何かを探し始めた。
カバンの中からパッと木の箱を取り出す。
結構な大きさのその箱は赤い十字なんかがついていて、家によくある救急箱だった。
「そんなものまで持ってきたの? 一泊二日の温泉旅行だよ? 何に使うの。心配しすぎだよ、名無子」
大げさなカバンの中のやっぱりひどく大げさに立派なその箱に、思わず僕が名無子を笑うと、
「心配しすぎじゃないよ! こうやって使うことになったんだもの!」
さっきまで泣いていた名無子がめずらしく必死の形相を見せて反論し、すぐに僕の手の傷を手当し始めた。
そっか。
確かにそのとおり。
使う羽目になってるね。
「そうだね」
僕の左手にきつく包帯を巻く名無子の姿に、僕はなぜかひどく満たされて、笑いながら呟いた。
to be continued.
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