リアル・ワールド
episode.11 (ページ5/5)
僕はよく見る真っ白い世界の夢を思い出した。
雪のような白さ以外、他には色も音も感覚も何も存在しない世界。
その中で、僕はいつだって途方にくれていた。
いつだって僕の心は迷子のようで、その中に閉じ込められそうになっていた。
そう、キミに、名無子に、惹かれる前までは。
『サイが迷子になりそうだから』
ふっと、あのガーデニング市の日に言われた言葉が脳裏をよぎる。
あぁ、そうか。
名無子はずっとそんな僕に気づいてて、きっといつも心配してくれていたんだろう。
僕の胸が相変わらずドクドクと脈打って、そんな胸に抱かれてる名無子が安らいだ声で呟いた。
「でも良かった。サイの胸、こんなにドキドキしてる。今、サイがちゃんとここに、私の前にいるんだって、そう思える。ちょっと安心した」
そう言うと、名無子は僕の体にきゅっとしがみついて、
「消えないでね、サイ?」
今度は空気に溶けそうな儚い声で囁いた。
キミは僕のことになると、ひどく不安な顔をする。
いっつも僕がキミを不安にさせてしまうんだ。
でも、もう不安になんかさせたくない。
キミを不安にさせるモノから守りたいとさえ思う。
僕は静かに目を閉じて、
「大丈夫。消えないよ。僕はちゃんとここにいる。そして、キミを守るって約束する」
体中を駆け巡る血液の速さを感じながら、キミの体を強く強く抱き締めた。
to be continued.
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