リアル・ワールド
episode.11 (ページ4/5)
でも、僕は何かひどい堪らなさに襲われて、その衝動に耐え切れず、名無子のほうに体を向けた。
「こっちに、おいで。名無子」
僕はグッと名無子の手を引っ張った。
布団の中で抱きしめた名無子の体は、すごくあたたかで、やわらかで、ちょっとだけ震えていた。
「怖い?」
僕がそう尋ねると、名無子は首を横に振った。
「違うの。……ただ、ドキドキしちゃって」
「そんなの、僕だって一緒だよ」
僕はキミを抱きしめる腕に力を込めた。
ふわっと洗いざらしのキミの髪から甘い香りが広がって、僕のことを心ごと包み込む。
そのまま身じろぎせず抱きしめられていた名無子が、おもむろに口を開いた。
「良かった」
良かった?
何が?
疑問に思う僕の胸中に答えるように名無子が言葉を続けた。
「いっつもね、不安なの。サイはなんだかこの世界にいないような気がして。どっかすごく淋しくて凍てついた…ううん、そういう冷たさなんかも存在しないような何もない世界に迷い込んでるみたいな気がして。いつかそっちの世界に消えちゃうんじゃないかって、ずっと私、不安だったの」
名無子……。
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