リアル・ワールド
episode.11 (ページ2/5)
僕が温泉からあがって部屋に戻ると、その後すぐ名無子も戻ってきた。
桃色の浴衣に、それより色の濃いくすんだ同系色の帯を締めて、いつもの忍服姿とは雰囲気がまるで違う。
お風呂上りで頬を蒸気させていることもあって、すごく柔らかな女の子らしさを感じる。
ちょっとだけ僕は名無子に見惚れた。
そんな僕に、
「サイ、その浴衣、すごく似合ってる」
名無子はそう言って、紺色の浴衣に黒い帯を締めた僕の姿を褒めた。
キミはホントにおかしなことを言う。
僕なんかより、キミのほうが似合ってるに決まってるじゃないか。
「名無子のほうが似合ってる」
「ほんとに?」
「ほんとに」
名無子は嬉しそうに笑うと、部屋の隅に置いてある荷物の整理を始めた。
僕もなんとなく手持無沙汰で、自分の荷物を片付けていると、
「なんかお休みってあっと言う間。今日はもう一日終わっちゃうし、明日はうちに帰らなきゃいけないなんて。やだな……」
名無子が残念そうな声を出した。
「うん」
僕だって戻りたくなんかない。
このままずっとキミのそばにいて、もう、一人になんかなりたくないよ。
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