リアル・ワールド
episode.10 (ページ4/4)
口に出さない僕の言葉までキミに伝わりでもしたかのように、聞き返したキミの顔がほわりとほころんで、
「じゃぁ、描けたら見せてね」
名無子がそばへとやってくる。
「うん、いーよ」
うなずいた僕は、
「それより、ほら、かして」
彼女の抱えるおっきなカバンが重そうで、迷わず手を伸ばした。
「ありがと、サイ」
名無子が素直に差し出した大きな荷物を受け取って、僕は尋ねる。
「こんなに何入れてきたの?」
「いろいろ。足りないものあったら困るから」
「一泊二日で何が足りなくなるの。心配しすぎ」
「かな?」
名無子が相変わらず朗らかに笑った。
ねぇ、名無子、キミはホントに変わってる。
僕の言葉のひとつひとつを、キミはイラだつことなく、そのキイロのガーベラみたいな無邪気さと明るさで笑い流しては、僕の存在をこの場につなぎとめてくれる。
そんな人、僕のまわりには誰もいなかったのに。
でも。
だから僕は惹かれたんだ。
そんな名無子だから、きっと僕はキミに惹かれたんだよ。
消えていく。
あの女とは手を切れと言った男の声が、確実に消えていく。
僕は名無子に声をかけた。
「じゃぁ、出発」
僕らは二人、玄関のドアを開くと勢いよく足を踏み出した。
to be continued.
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