リアル・ワールド
episode.09 (ページ1/1)
僕達は二人寄り添うようにベッドの上に並んで、シロップ漬けの黄桃を一切れずつ分け合った。
ひんやりとした桃のかけらを甘いシロップとともに飲み込んだ名無子は、ぼくの肩に軽くその身をあずけるようにして呟いた。
「ごめんね、サイ」
「……」
彼女に視線を向け黙り込む僕の横で名無子が言葉を続ける。
「あの日、気に障ることしちゃったみたいだから……。ずっとね、謝ろうと思って毎日図書館で待ってたの。でも、会えなくて……。そんなふうにずっと待たれるの、きっとウットオシイんだろうけど、私、他にどうしたらいいのかわかんなくて……」
彼女は花がその花びらを散らすように視線をベッドの上に落とした。
「ごめんなさい」
消え入りそうな名無子の姿に僕は思わず彼女の顔をのぞき込んだ。
「違うよ。悪いのは、僕の方だ」
「サイ」
「ごめん」
キミが目をあげて僕を見る。
その顔がまだひどく悲しそうで、僕はそんな彼女をどうにかして安心させてあげたくなる。
彼女の目に僕の姿をしっかり映しながら、僕は穏やかに声を降らせた。
「名無子、今度一緒にどこかにでかけようか」
図書館なんかじゃなくて。
もっとちゃんと、遠くに、二人で――。
僕のささやかで、でも精一杯の提案に、名無子が小さく小さくうなずいた。
「うん」
「じゃぁ、小指出して」
名無子が戸惑うように差出した小指に、僕は自分の小指をしっかり絡める。
「指きり」
名無子と指を絡めたままで僕がそう言うと、
「うん」
名無子はもう一度小さくうなずいて、そして、やっと笑ってくれた。
僕の前で。
僕の好きなキミのキイロいガーベラみたいな朗らかな笑顔がふわりと優しく花開く。
その姿にいつのまにか僕までつられるように笑っていた。
キミにむかって、僕は笑ってたんだ。
to be continued.
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