リアル・ワールド
episode.08 (ページ4/4)
自分を見つめる僕を泣きそうな顔で凝視して、名無子が声を発する。
「アタシだって……」
僕の背後でベッドに沈むようにして座り込むと、名無子は僕の上着をつかんでその肩先に自分の顔をうずめた。
「アタシだって…サイが好きなんだから……」
聞こえた声に僕はわずかに目を見開いた。
僕の胸が、呼吸が、ひどく息苦しくて、まるで何かが詰まりでもしたかのようだ。
それがドクンッと大きな音を立ててあわただしく機能を開始する。
何も感じないはずだろう?
今までずっとそうだっただろう?
でも僕はキミの単純で弱々しいそんな一言に、自分の体を貫く満ち足りた快さを感じてしまってる。
どういうことだろう?
疑問に思ったところで答えなどわかりはしないけど、僕はその心地よさを手放すことなんかできなくて、
名無子――。
僕は自分の肩にしがみつく名無子に手を伸ばし、その頭に優しく触れた。
僕も少し首を傾けて、名無子の頭に自分のそれをコツンとあずける。
「桃、一緒に食べよう? 二人で半分コしよう」
いつもキミが僕にしてくれるみたいに。
コレも二人で分けようよ。
そう言って僕がそっと目を閉じると、キミは僕の肩先で、僕の上着をきゅっと握ったまま、
「ぅん」
頭を縦にわずかに動かした。
to be continued.
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