リアル・ワールド
episode.08 (ページ3/4)
僕の体内が一気にザワッとあわだつ感じがして、僕はそれを抑え込むために慌ててあきらめに似た割りきりを呼び起こした。
そうだね、そうなっても当然のことなんだ。
だって、僕は彼女を傷つけたんだろうから。
僕は桃を見つめながら笑顔を作った。
「うん、わかったよ。僕がここにいたんじゃ名無子が迷惑だろうからね」
僕の一言に名無子がビクッと反応して、めずらしくせきこんで答える。
「違うよ、そういう意味じゃ……」
「だったらッ……!!」
僕は彼女の言葉を遮るようにして彼女を振り向いた。
「だったら、じゃあ、僕をここにいさせてくれればいいだろう? 病院に行くよりも、家に帰るよりも、僕はキミのそばにいたいんだよ。だから……」
名無子を、食い入るように見つめる。
「ここにいさせてよ――」
何をムキになっているんだろう?
僕がこんなにムキになることなんて今までなかっただろう?
胸の真ん中がやけにうるさくてたまらない。
でも、そんなもの、もうどうでもいい。
それよりも止めようのない何かに突き動かされるように、僕はもう一度口を開いた。
「キミが好きなんだ――」
聞こえた自分の声に、僕はもうムリだと思い知る。
さっきまでせき止められていた言葉を、湧き上がる何かを、僕はもう止めることができないみたいだ。
今まで誰に拒否されても何も思わなかった。
誰を傷つけても何も感じなかった。
けど、キミは違う。
もう僕は拒否されたくない、傷つけたくない。
キミだけは。
キミだけには、名無子。
そう思う自分をごまかすことは不可能だ――。
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