リアル・ワールド
episode.07 (ページ1/2)
名無子の匂いに包まれながら、僕は目を醒ました。
まだボゥッとする頭が懸命に自分の状況を理解しようと動き出す。
名無子の匂いのする布団。
なんで僕はその中にいる?
額には冷たい何かがのっていて、手をやると濡れタオルだとわかった。
逆の手には温かいモノがのっていて、闇に慣れ始めた目をそっちへゆるゆると向けて見る。
僕の手に重なる誰かの手。
それはベッド脇で眠る名無子の手だった。
名無子――。
その手のぬくもりが、僕の脳裏にゆっくりと今までの出来事を思い起こさせる。
そうだ。
僕は任務が終わってココへ来て……。
体調の悪い自分を名無子が部屋に引き入れて、寝かしつけてくれたんだ。
僕はベッドの傍らでベッドにもたれて眠る名無子を見つめた。
ずっと看病しててくれたのか……。
僕のことを心配して、ずっと――。
あの野原であれだけ冷たい言葉を僕はキミに突きつけたのに。
そのくせ自分勝手に現れた僕を、キミはこんなふうに優しく包み込んでくれる。
本当ならキミは僕を心配する必要なんかどこにもないのに。
みんなみたいに怒って、僕の存在を無視すればいいのに。
でも名無子、キミは違うんだ。
名無子のそんな姿に、自分の体の隙間すべてが嬉しいような苦しいような、何かひどく密度の高い気体で埋め尽くされた感じになる。
あのガーデニング市の日、僕はキミをずいぶん傷つけたんだろう?
僕は重なり合う手を静かに引き抜いて、
「ごめん、名無子」
穏やかに寝息をたてる名無子の頬にそっと触れた。
(ページ1/2)-20-
←|→ backselect page/71