リアル・ワールド
episode.06 (ページ2/2)
どれくらい時間が経ったろう。
辺りが夜の闇に染まり始めた頃、ふいに人の気配がして、こちらに近づく足音が聞こえた。
誰か来た。
目を開けるのも面倒なくらい僕の体はダルさを増して、僕はただドアにもたれてその足音を聞いていた。
だんだんと足音は大きくなり、やがてこのアパートの二階へと階段をのぼり始める。
僕のいるこの二階へと。
しばらくすると、足音の人物が階段をのぼりきったらしい空気が伝わって。
そして――。
「サイ!」
あわてて駆け寄る足音とともに僕は名前を呼ばれた。
僕が待っていた人物から。
そう、名無子、キミから。
僕がうっすらと目を開けると、キミは僕のそばにしゃがみこみ、今にも泣き出しそうな顔で僕のことを見つめている。
「どうしたの?!」
って、ひどく混乱した声が僕の耳管を揺るがした。
あぁ、名無子。
どこ行ってたの?
ずっと待ってたんだ。
もっと早く帰ってきてよ。
そう言おうとしたのに僕の言葉は声にならなくて、口からは熱い息が漏れるだけだ。
そんな僕の頬に、名無子がおそるおそる手を伸ばす。
頬に触れた名無子の手はひんやりしていてすごく気持ちがいい。
そのまま触れていてほしかったのに、
「ひどい熱……!!」
名無子は叫ぶように呟くと僕の頬から手をはずし、急いで部屋の鍵を開けはじめた。
僕の体をいたわるように抱き起し扉を開くと、名無子は僕を部屋の中へと入れてくれた。
朦朧とする頭の僕をベッドに寝かせて、名無子が僕の顔を覗き込む。
ひどく心配そうな表情で、
「眠って、サイ」
キミはとっても優しい声で囁くように言いながら、僕に布団を掛けてくれた。
僕はどうしようもない安心感に包まれて静かに目をつむると、そのままスゥーッと眠りに落ちて行った。
to be continued.
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