リアル・ワールド
episode.04 (ページ3/5)
暗くてよく見えなくて、僕は大きな木の下で雨宿りしている人影に一歩一歩ゆっくりと近づいた。
ようやく判別できたその姿に、僕は思わず息を飲む。
名無子……。
向こうも僕の存在に気づいたらしい。
近寄る僕に向かって顔をあげた。
その顔が僕を見た途端、ホッと和らいだ。
「あぁ、来た。遅かったね、サイ。もうガーデニング市終わっちゃった」
怒ってもいない。
あきれてもいない。
そんな名無子に、僕の中で何かが頭をもたげようとして、僕はそれをグッと押さえつけた。
「まだ、いたの?」
「うん」
いつものように、なんてことない表情で名無子が頷く。
「怒らないの? こんなに待たせたのに」
「もう、いいよ。こうして来てくれたもの」
彼女はそう言うと、ポケットからハンカチを取りだして、
「それより、どうしたの? びしょ濡れじゃない。風邪引いちゃう」
僕の体を拭き始めた。
その姿に、トクンと、あの暖かな感覚が音を立てて僕の胸に広がり出す。
それでも僕は無理やり作り笑いを浮かべた。
「別に。何でもない」
僕の笑顔を見た名無子がすっとうつむき呟いた。
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