リアル・ワールド
episode.01 (ページ2/2)
目が、醒めた。
ゆっくりとまぶたを持ち上げた僕の目に、僕の部屋以外の景色が映る。
あぁ、そうか。
ここは名無子の部屋。
ここで僕は壁にもたれて寝入ってしまったらしい。
体の上には名無子が掛けてくれたのだろう、カーディガンがのっている。
僕はカーディガンに目を向けた。
手編みらしきザックリとした作りのカーディガンは、よく見ると所々目が落ちていて相当お粗末な代物だ。
編み方を間違えているところさえある。
そんなカーディガンの下から僕は身を起こし、この部屋の主である名無子の姿を探した。
出窓に並ぶアジアンタムやポトスの鉢。
その中でひとつだけツボミをつけた花にジョウロで水をやっている名無子の姿が目に入る。
僕の視線に気づいたのか、名無子がこちらを振り向いた。
「あ、サイ。目が醒めた?」
その声に、僕は胸の上のカーディガンを少し持ち上げて、
「このカーディガン、目が落ちてる」
そう呟くと、
「それ、私が作ったの」
「ひどい出来」
「私もそう思う」
名無子が朗らかに笑った。
名無子はいつもこうだ。
感情を持たない僕はいつだって人をムッとさせてばかりだし、シカトだってよくされる。
それが普通なのに、名無子は違ってた。
僕が何を言っても気にすることなく、ゆるやかに笑う。
それは僕にとってひどく変な光景だったけど。
でも。
どうしてだろう。
いつからか、僕はそんな名無子の前で作り笑いをしなくなっていた。
to be continued.
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