昼の月
episode.13 (ページ1/3)

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無意識のうちに体が動いていたんだ。
男のバカでかい斧を背から引き抜いた刀で受けようとする愚かなサイを、あんな細身の刀身じゃ無理だろう、と思ったところまでは覚えている。
なのに、その先は。

気づいた時にはもう名無子は標的の男の手を蹴りつけていた。
大きな図体が地面に転がる姿を眺めながら体に感じた視線に目をやればサイの真っ直ぐな黒目に射抜かれた。
その瞬間、我に返った。

私は、何を――。

胸の奥に沈んだすべてを拒絶する自分の意識が激しく揺すられて無理やりひきずりあげられそうになる。
その感覚に、嫌だ、と抵抗する嫌悪感が体中を駆け巡った。
何かから逃げ出すように名無子はサイから視線をそらし、敵に向かって走り出していた。

なんなんだ。
意味がわからない。

名無子が敵に攻めかかりながら、いつもはサイにぶつける不可解さを自分自身に投げつけた。

なんだってとどめを刺してしまわなかったんだろう。

斧を振りおろしている最中、男の体はガラ空きだった。
だったら殺してしまえばよかった。
なのに、そうしなかったのはつまり――サイを救えないから、だろう。
自分が男にとどめを刺したところで打ちおろされてしまった斧は止まることはない。
その重さが重力に引き込まれてサイの刀に落下し続けるに決まっている。



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