昼の月
episode.01 (ページ1/5)

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火影のような英雄になれるほどズバ抜けてスゴイところなど何もない。
かと言って誰よりも飛びぬけて不幸なことなど何一つ背負ってきてはいない。
つまりはひどく凡庸な自分――。
失恋ならしたことがある。
イジメも受けた。
だけどその痛みは私にだけ課されたものってわけじゃない。
私以外にだってそのくらいの痛み、経験してる人はいっぱいいる。
だったら要はどこまでも平々凡々な自分の存在。
だから失恋したんだろう、だからイジメられたんだろう。
平凡な自分だから。
平凡で価値の無い存在だから。
自分はいてもいなくても意味などないどうでもいい存在。
でもその現実を受け止めるには私は弱すぎた。
弱すぎて、怖くなって、その現実から私は目を閉じた。
何も聞こえないように耳を塞いだ。
そうして後は墜ちていくだけになった。
この世界から引き剥がされるように深い闇の海へどんどんどんどん墜ちていく。
感情が朽ち果てて少しずつ自分が消えていく。
そしたら怖さは消えたけど、今度は生きてる実感までもがなくなった。
自分がここに存在してるのかもわからなくなった。
ある日、任務でたまたま受けた掠り傷に、あっと思った。
痛かった。
痛いから、あぁ自分は生きてるんだ、とわかった。
ただそれだけのこと。
自分で死に行く勇気もない私はただ現実から引き剥がされるように落下を繰り返し、ちょっとした怪我を受けてはその耐え切れる痛みの中で自分が生きてると安堵する。
ただそれだけの日々――。





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