昼の月
episode.19 (ページ1/4)

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ブ〜ンと羽音をあげて飛んでゆく一匹の墨絵の蝿を黒髪の青年が追いかけていた。
サイ、だった。
男たちの攻撃から変わり身の術で逃げおおせた彼は、その後近くの木陰に身を隠し、名無子を拘束する彼らの様子を覗きこんでいた。
まずは自分と名無子双方の命を確保するという最低限の希望は叶えられた。
ではその状況で、次に取るべき行動はなにか。
――追跡だろう。
もちろん連中のアジトを突きとめるためだ。
だが、このまますぐに彼らの後を追いかけると、追尾に対する警戒が強かった場合、見つかる可能性がある。
もし彼らがアジトに戻る途中で見つかりでもしたらさっきの二の舞だ、今度こそ自分も名無子も殺されてしまうだろう。
見つかる前に奇襲をかけるという手もあるが、一対六という人数の圧倒的不利な条件下ではうまくいくかどうかは微妙なところであり、下手にしかけてまたもや名無子を盾にされてしまっては動きがとれなくなる。
それでは自分が逃げた意味も追跡する意味も水泡に帰すというものだ。
だったら、ひとまず追跡は超獣偽画に任せようと、サイは巻物に一匹の蠅を描き、名無子のそばをついていかせた。
名無子がしきりにうるさがっていたのはこの蝿だ。
そして、今、ようやくサイの元に戻ってきた蝿を名無子が連れて行かれたアジトへ向かわせ、その後をサイが追っているというわけだ。
サイが黒い瞳に力を込め、前を飛ぶ蝿をグッと見つめた。





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