昼の月
episode.10 (ページ2/2)

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まただと思う。
またこの人はおかしなことを口にする――。

「キレイでいいと思うけど」

空の中心で何よりも重厚な存在感を明示している月を見やり、名無子が呟くように返した。
サイは視線を月に置いたまま、素直に首肯した。

「うん、キレイだ。キレイだけど、でもそのキレイさがつらくなる時があるんだ。太陽や夜の月はすごく正統で誰もが認める存在だけど、そんな完璧さを湛える姿は僕みたいな欠陥だらけの人間には眩しすぎることがあるよ」
「それならアナタは昼間の月のほうがいいと言うの? あんなあってもなくてもいいような月が」

淡々とした物言いはいつも通りだが、それでいてどこか否定的な偏りを含んだ自分の声に名無子はちょっとばかり目を細める。
サイがまっ黒なその瞳を金色の月から名無子へと注ぎ、迷うことなく頷いた。

「そうかもしれない」

何の曇りも感じさせない真っ直ぐな声と目。
それに射抜かれたように名無子の体は動かなくなった。

「僕は真昼の月のほうが好きかもしれない。あの居場所さえ無いような孤独感や懸命に空にしがみつこうとするような姿はなんだか見てて救われる気がするよ。自分も同じつまらない存在だから」

ドクン、と大きく全身が脈打った。

真昼の月に、救われる――。

無意識のうちに口の中で呟いていた名無子の前で、サイがもう一度月を見上げた。
夜空の月を憧憬するような表情で見つめるサイの横顔に、どういうわけか名無子は真昼の月を感じていた。





to be continued.
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