昼の月
episode.10 (ページ1/2)

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真夜中に月を見ていた。
森の中の大きな杉の木に登り、そのてっぺん近くの枝に座った名無子は丸く立派な月に目を向けたまま、両手にかけた赤い毛糸を時々思い出したようにゆっくりと細い指ですくっていた。
夜空に浮かぶ金の月は辺りをそれと同じ色に染めてしまうくらい光に溢れてて、他のどんな星よりも眩しくキレイだ。
名無子もこんな月になりたいと思う。

『名無子は真昼の月に似てるね』

昼間、任務の時にサイから言われた言葉が頭に響く。
あの人の言うことはいつだっておかしなことばかりだ。
それなのに、なんだって突然こんなにも本質的なことをついてきたりしたのだろう。

真昼の月、か――。

思い出される昔の荒廃した記憶にとうに忘れたはずの歪な痛みを感じた気がして、名無子は無意識のうちに瞳を閉じた。
そのとき、自分の右横から人の気配が伝わってきた。

「月を見てるの?」

かけられた声にまぶたをあげ、視線を投げれば、その先には呼びもしないサイがいた。
名無子の座る杉の横、隣接する木の枝に立って、こちらを覗きこんでいる。
名無子は目を伏せ、手にしていた毛糸を片方の手に握りこめる。
サイの問いかけに答えもせずに枝から飛び降りようと木に足をかけた。
すると、サイが月に顔を向け、彼独特の静かであまり抑揚のない口調で告げた。

「夜の月は完璧すぎて見てるとちょっと苦しくなるね」

名無子が浮かせかけた体を宙で止めた。

完璧すぎて苦しい?



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