昼の月
episode.01 (ページ2/5)

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木の葉の端に誰からも捨て置かれた古い廃墟が建っている。
周りを鬱蒼とした森に覆われた五階建ての建築物は取り壊しにも費用がかかるせいか、朽ちるままに放置され、コケやツタの絡む石造りの壁がところどころ崩れ落ちている。
そんな人気のないうらぶれた廃墟の屋上に人の姿があった。
女だ。
年のころは十六、七、黒いノースリーブから伸びる腕は細く、同色の丈の短い巻きスカートからは具足帷子をつけた両脚がスラリと覗く。
足元には黒の忍靴、額に木の葉の額あて。
肩に触れる白みがかった蒼い髪が風にサラッと揺れた。
髪よりも濃い蒼を宿す涼しい瞳が空を見上げ、女は足を一歩踏み出す。
屋上の縁、一段高くなった部分に立った彼女は目の前に広がる青空を一瞥し、そのあと空に背を向けた。
建物の側を向き、静かに目を閉じると、彼女は両手を広げる。

ふわっ

後ろ向きに空へと身を投じた。
一瞬、体を浮かす浮力が生まれ、つづいて骨髄を引っ張られるような重力に支配される。

墜ちていく。

体が、自分が、墜ちていく。



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