真昼の月
episode.05 (ページ2/5)
名無子は相手の顔に目を向け、簡潔に否定してみせた。
「逆よ。私はクナイをよけなかっただけ、かわいそうなのはあなたのほう」
そこまで言うと名無子は左腕を曲げ、上腕部にクナイを刺している男の右手首をしっかりとつかんだ。
「ッ……!!」
名無子をなめてかかっていた男の顔には驚愕とともに恐怖の色が浮かびあがり、その表情を遠い目で眺めながら名無子は自分の握っていたクナイを無造作に地に落とした。
手を背中の刀に伸ばす。
「これで楽に死ねる。あなたがね」
「よッ、よせッ――」
男が抵抗を見せるよりも先に、
ズグッ……
名無子の背から引き抜いた刀は男の左胸部に沈みこみ、男の体が膝から崩れ落ちていく。
刀を男の胸から抜くと、足元に死体がひとつ転がって小さな赤い水たまりを作った。
刀身を鞘におさめたあと、名無子は慣れた手つきで自分の左腕からクナイを抜きとってその辺へ放り捨てた。
傷口からはズキズキとした痛みが走り、生温かな血液が滴る。
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