昼の月
episode.04 (ページ6/6)

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真上に広がる青空は名無子との距離をある一定間隔に保って停止し、今まで下から上へと流れていた空気が横へ横へと移動していく。
何……? と思う間もなく、名無子の耳にサイの声が届いた。

「大丈夫? 怪我はない?」

ツ……と動かした視線の先にサイの細い体が見えた。
名無子は一瞬にして状況を理解する。
サイの描いた墨絵の鳥に助けられた、そういうことだ。

放っておいてくれたらよかった。

仰向けになったまま動かずにいる名無子を同じ鳥の背に立つサイが肩越しに見下ろす。
名無子から返される沈黙をムッとするでもなく、サイはただ冷静に受け止めて名無子の体に外傷らしきものがないことを確認したあと即座に崖の上へと顔をあげた。

「あの男を追うよ」

サイの声に反応し、墨絵の鳥が上空へと大きく羽ばたく。
その羽ばたきを背中に感じながら、空を眺めていた名無子がポツリとつぶやいた。

「助けないでくれてよかった」
「え?」

サイが名無子に目を向ける。
どこか存在感の欠けた名無子がもう一度繰り返した。

「助けないでくれればよかった」

名無子はゆるゆると体を起こすと、だいぶ近づいてきた崖上目がけてダンッと鳥の背を蹴った。





to be continued.
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