真昼の月
episode.04 (ページ5/6)
ひゅうッ……と枝と一緒に落下風にあおられ下降していく自分の体に名無子が漠然と思う。
あぁ、これは死ぬな。
落ちゆく感覚の中で目に映る青空がどんどん遠のいていく。
その光景に、でも、まぁ、いいか、と口の中で呟く。
そう、悪くない。
あの空から引き剥がされて行くように、この現実から引き剥がされて行くのも、きっと、そう悪くはない。
自分がこの現実からこぼれ落ちたって別に何も変わりはしない。
いつものように廃墟の屋上から飛び降りるのとは違い、今は下に渓流が待ち望み、着地云々というよりもその流れのほうが問題だ。
かなりの速さで流れゆく水の中に落ちたらこの身は一気に飲みこまれ、浮かびあがるのも大変だろう、簡単に溺れ死ねる。
刻々と死の底へ落ちていく名無子を上空から見下ろしている白い月が一瞬嘲笑うように視界に入り、名無子はふぅっと目を閉じた。
浮力を打ち消し、重力に引きずられ加速していく落下速度、それに身を委ねたとき、
ポフン――。
え?
自分の背に予想外の、何か柔らかなものの上に乗った感触が生まれ、名無子はスルッとまぶたを持ち上げた。
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