昼の月
episode.23 (ページ2/2)

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条件反射で反応しようとする自分の中の忍を名無子は諦観という念で沈めさる。
その途端、一気に体の力が抜けていった。
何もなかった自分の人生、手にしたのは体中を支配するこの痛みくらいなものか。
ズキズキと痛みを増した全身の打ち身に軽く眉を寄せた後、名無子は膝を床についたまま蒼く涼しい瞳の上にゆっくりまぶたを落とした。
辺りに充満するのは野犬のいきり立つ唸り声とじめついたこの石部屋の饐えた匂い。
その中に野犬達の床を爪で蹴りつける乾いた音が響いた。

これで、おしまい。

そう思った時だった。
名無子の左手、高窓のある場所から物凄い衝撃音が聞こえるとともに、自分の目の前に何かが立ちはだかる気配がした。
何事かと目を開いた名無子の視界に飛び込んだのはひとつの背中、それは自分を捨てて逃げたサイのものだった。

――ッ。

言葉を失う名無子の前で、ガルルゥッと獣同士の噛みつきあう咆哮が飛び交い、サイの放った墨の唐獅子が野犬を相手にねじ伏せている。
扉の外からはカギをガチャガチャやる音が聞こえ、内部の異変を感じた看守が慌ててカギを開けようと必死になっているようだ。
サイの黒く真っ直ぐな瞳が名無子を振り向いた。
唖然とする名無子と視線を絡ませると、サイは無言で名無子の拘束された体を抱き抱える。
華奢な体のどこにそんな力があるのだろうと思うほどサイは軽々と名無子を脇に抱えて地面を蹴り、サイが飛び込むときに開けたのであろう、高窓の崩れ落ちた部分から外へと跳躍した。
サイがバッと空中に飛び出し、それを受け止めたのは塔の外で羽ばたいていたモノトーンの大きな鳥だ。
超獣偽画の術により具現化した墨絵の鳥が名無子を抱えたサイの体をその背にしっかり受け止めた。





to be continued.
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