昼の月
episode.19 (ページ2/4)

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墨絵の蝿に連れられ辿りついたアジトの入り口は木々の奥深く緑に隠れた山の麓にあった。
切り立った斜面に開けられたそれは急な勾配から岩が崩れ落ちて来たのか、幾重にも重なり合った岩の隙間に小さな口を開けている。
木材を支柱になんとか四角い穴を保持している姿はさながら炭鉱の入り口のようで、その前を警護の人間と思われる男たちが入れ替わり立ち替わりうろうろと歩きまわっていた。
サイは警護役のいかつい男たちに見つからぬよう離れた場所の茂みの中に身を潜め、忍ポーチから取り出した巻物を地に広げた。
草地に置いた白い紙面に墨を含ませた筆でひと筆描きに何匹かの蝙蝠を描き、スッと立てた細い左手の人差指を唇にあてがうと小声で呟いた。

「超獣偽画の術」

巻物から黒々とした蝙蝠が数羽、勢いよく羽をばたつかせ飛び立っていく。
蝙蝠たちは先ほどサイが眺めていた狭苦しい岩場の出入り口目指して飛翔し、そこを警護してまわる者たちの脇を掠めた。

「うわっ、蝙蝠かよ」
「くそ、あっち行け!」

男たちは蝙蝠を迷惑そうに払っただけで、特に気にした様子はなく、そのおかげでサイの放った墨絵の偵察者はうまく正面口を突破し、中への侵入を果たした。
それから待つこと数分、その蝙蝠たちが出てきたのは今度は山の中腹に位置する樹間からだった。
入って行った場所と違うところから姿を現した羽ばたきにサイがわずかに首を傾げる。

山腹……。

サイが腕を組み、軽く握った右手で口元に触れる。
地面に広げたままの巻物には帰還した墨の蝙蝠が次々舞い降りていた。
サイは巻物のそばに膝をつき、紙に吸収され墨へと化していく蝙蝠の姿に目をやりながら得られた情報の分析に入った。
アジトへの侵入経路および内部の様子、男や名無子の居場所、そのほかの連中の配置など蝙蝠たちが持ち帰った諜報成果を余すところなく記憶をつかさどる脳の海馬へと格納し、すぐに次の行動を開始する。
巻物をつかむと同時にサイは草地を蹴ってその場を後にした。






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