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episode.32 (ページ1/4)

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見合いになんか、これっぽっちも行く気はなかった。
だから、見合い相手の写真なんてものも、俺はまったく見ちゃいない。
プロフィールどころか、相手の名前さえ、知ろうとはしなかった。
でも、俺はそのことを心底、後悔していた。
もう少し、相手を知っていれば、こんなに驚くこともなかっただろう。
それ以上に、もしかしたら、このお見合いじたい、どうにか回避する策を講じられたかもしれない――。

「こんにちは、ネジさん」

座卓の向こう側から、彼女がはにかむような笑顔を見せる。
あごのラインで切りそろえられたきれいな黒髪が揺れ、俺のほうへと静かに下げられた。

「任務では大変お世話になりました」

下げるときと同様、ゆっくりと元の場所に戻された顔から、俺はショックのあまり目が離せなかった。
控えめながらも形のよいパーツで作られたきれいな顔立ち。
端正な日本人形を思わせるその容貌は、黒目がちな瞳が放つ明るい光と薄桃色に染まる血色のよい頬により、健康的な美も兼ね備えている。
正直、美人といっていい。
そして、この顔に、俺は確かに会っていた。
任務で一緒になった結界班のひとり。
顔合わせのミーティングの時、俺の名を知っていた女。
任務で助け、軟膏の話をした女。
そう、まぎれもなく、昨日まで共に寺院の警護にあたっていたあの結界忍者の女だ。
俺は目の前に浮かぶ衝撃を必死に飲み込み、声を絞り出す。

「いいえ……こちらこそ、どうも……」

ヒアシ様がちらりと俺に視線をよこした。
俺たちが顔見知りだったことに少し驚いているようだが、そんな驚き、俺のものに比べれば天と地ほどに違ってくる。
ヒアシ様はそれ以上、とくに何を追及するでもなく、座卓の前へと移動した。
俺もヒアシ様の隣に席を移す。
俺たちが席につくのを待ち、ヒアシ様の正面に座る紋付羽織袴が口を開いた。



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