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episode.31 (ページ1/4)

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「先方様が既にお着きでございます」

キレイな老舗料亭の正面玄関で、女中風の店の者からそう告げられ、俺とヒアシ様は見合い相手が待つ座敷へと即座に案内された。
庭に面した廊下を、案内係とヒアシ様の背中を見つめ、歩いていく。
手入れの行き届いた日本庭園からは、晴天の暖かな日差しをはらむ風が穏やかに流れ込んできていた。
しかし、そのひどく心地よい風を受けても、俺の足取りはいっこうに軽くはならない。
歩を進めるたびに伝わる板張り廊下の感触がやけに冷たく足裏に突き刺さる。
俺の視線が前を行く二人の背から足元へと落ちていった。

『全然、仕方なくない!!』

昨日、怒りもあらわに叫んだ名無子の言葉が耳の奥で鳴り響く。
アイツが俺に怒るのも当然のことだ。
俺の恋人役どころか、花嫁修業までさせられて、それもこれも全てこの見合い話を潰すためだったというのに、

――俺は今、見合いに来てしまっているのだから。

これでアイツの苦労はすべて水の泡だ。
もちろん、俺だってすまないことをしたと思っている。
俺にもっと勇気があって、アイツがうちの家訓を壊したように、俺も日向家の名を落とす行為におよべたなら、こんなことにはなっていない。
そして、こんなことにならなければ、

アイツのあんな眼を見ないで済んだんだろうか。




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