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episode.16 (ページ7/7)

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「いえ。異状がありましたらすぐ呼んでください。では」

俺は先ほど自分が飛び出してきた森の中へと走りこむ。

礼、か。

樹上を駆けゆく俺の頭にポンッと名無子の顔が浮かんだ。
ちょっと癖のはいった黒髪。
瞳は本当は丸いのに、俺のことを睨み据えてばかりいるからいつも細められてて可愛げがない。
ついでに口も俺の前ではたいていへの字だ。
特に起きぬけの顔はひどくて、色気も何もない、それどころか相対する俺への気遣いさえみられないボサボサ頭、まだ覚醒しきれていないことが丸見えの半開きの目と唇。
本当に失礼極まりない名無子の顔。
でも、そんな顔でも、俺より先に起きて飯を作ってくれているアイツに、俺は礼を言わなければいけないのかもしれない。

だが……。

俺は気のない呟きを胸にもらした。

アイツ、俺がどんなに優しくしてやったとしても絶対に礼なんか言わなそうだからな。

そんなヤツに感謝の言葉を与えるのは非常に腹立たしい。
第一、アイツ、着物をめちゃくちゃにしたり、脱走を試みたり、この数日で俺がどれだけ迷惑をかけられたことか。

「やめだ」

俺は短く吐き捨てると、枝を蹴る足に力を込めた。





to be continued.
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