Break for
episode.05 (ページ4/5)
シーズンいくつだろうか、わりと初期シリーズのDVDを観ているらしい父親は、俳優たちのセリフを縫うように、
「……」
時折ボソボソッと、コレ返事? みたいな呟き声を送ってくる。
母親は何を言っているのかまったくわからないその声を長年連れ添った愛の力でカバーして奇跡的に理解してみせる。
「えっ?! そうよ、あのネジくん! 日向家の!! 白眼の!! 日向家って言ったら、お父さん、玉の輿よ、玉の輿!!」
「いえ、ですから、まだ花嫁……」
『ここです、左京さん!』
『鶴山くん、犯人はきっとこの建物のどこかに……!』
ボソボソボソ……。
重なり合う不協和音を母親が腰に手を置き、家の奥を向いたまま打ち破った。
「ちょっと、もうお父さん! もっと喜んでくださいよ?! あら? もしかして、あなた、娘の嫁入りが寂しいの? ……もう、お父さんてば。そうよね、あの子が小さい頃、あなた、この子は絶対に嫁にはやらん、なんて言ってましたもんねぇ」
大事な娘ですものねと言いながら目頭を押さえこむ母親にフミはすかさず話を切り出した。
「とにかく。しばらく名無子様は日向家分家のほうで責任もって預からせていただきますので。つきましては名無子様の着替えなどを用意していただけないでしょうか」
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