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episode.32 (ページ3/4)

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「小糸は君に助けてもらってから、以前にもまして君への想いを募らせてしまったんだ。この子の一途な気持ちをわかってはもらえないだろうか?」

わかってもらえないだろうか、って……。

俺は心の中で大きなため息を吐き出した。
娘かわいさといったところか。
俺の気持ちなどはまったく考慮に含まれちゃいないらしい。
小糸さんの父親から真っ直ぐ顔をのぞきこまれたまま、反駁の糸口を探しあぐねていると、

「それに悪い話ではないはずだ」

お父上は取引でも持ちかけるような口調で話しはじめた。

「君は白眼を継承する名門日向家の生まれ。そして、うちは結界忍術で一目置かれる藍染(あいぞめ)家。自分たちでいうのもなんだが、木の葉屈指の家柄同士、似合いの組み合わせだと思うが」
「――」

俺の肩に妙な威圧感がのしかかった。
名門・家柄という言葉が俺の心を、体を拘束し、ひどい息苦しさを与える。
自分の呼吸音が耳元で唸りをあげて聞こえた。
藍染家当主の男は、茶を一服すると、若草色の湯飲み茶わんを卓の上に戻した。

「もちろん、小糸には日向家に嫁いでも恥じないように十分な教育をしてある。ネジくんと小糸が結ばれ、木の葉で名家といわれる両家が手を取り合えば、互いの家の名をさらなる高みへと発展させられるのではないかな」

相手の半眼が俺の顔をぴたりと射抜く。
岩のようにいかつい顔の男が見据えてくる威圧感は、首の後ろを鷲づかみされ、無理やり地面にねじ伏せられたかのように、強力で半端ないものだった。
俺は固く唇を結び、膝頭に置いた手を握りしめた。



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