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episode.31 (ページ4/4)

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ヒアシ様の姿をこれ幸いと、俺も同じように座して顔を伏せた。
案の定、ヒアシ様の口からは、

「遅くなってしまい、申し訳ございません」

謝罪の意を告げる言葉が出された。
もちろん先方からは、「気になさらずに。さぁ、顔をおあげください」と社交辞令に似つかわしい決まり文句が返される。
男性の声だった。
左奥の上座から聞こえたその声は、おそらく付き添い役の父親あたりのものだろう。
俺たちは厳かに顔をあげた。
少しずつ上がっていく視界に入ったのは、まず、部屋の真ん中に置かれた立派な座卓だった。
上には茶托に乗せられた若草色の湯呑みがふたつ、白い湯気を軽く立ちのぼらせている。
そこからさらに視線を上にずらせば、相手家族の着物が見えた。
右端のそれは、声から察しがつくように、男性の、黒の紋付羽織袴という装いだった。
がっしりとした体躯に質の良い羽二重をまとい、威厳にあふれている。
比べて、左に座る者は鮮やかな赤地に花柄をあしらった女性の着物。
錦織の帯を合わせ、華やかで若々しい芳香をあたりに放っている。
どうやら俺の見合い相手はこの赤い着物の女性ということになりそうだ。
思わずこぼれそうになるため息を飲み込み、俺は顔に無表情を張り付ける。
視線を徐々に上げていった。
胸元の赤に散らされた極彩色の花模様から線の細い色白な首、そこからさらに上方の――。

「――ッ」

視界にその顔が入った途端、息をのんだ。
眼球を通して映し出される相手の顔――それは、俺の知っているものだった。





to be continued.
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