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episode.33 (ページ1/3)

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もう二度と帰ることのないだろう家をあとにし、大門に辿りついた俺はそこで一瞬、息を止めた。
夜明け前だというのに門の脇には人が立っている。
一体誰だ、と思って目を凝らせば、暗がりの中、浮き上がった人影は、まぎれもなく名無子の姿だった。

名無子――。

なんでここにいるのか、そう声に出して問いかけたら今まで俺の中に積み上げてきた何かが一気に崩れそうな気がして、俺はすぐに心を閉ざした。
まっすぐ前を向いたまま一歩一歩やたら遅く感じる歩みを乗り切って、俺は無言で名無子の前を通り過ぎる。
大門をくぐりぬけ、里から遠のいていく俺を少しだけ見送ると、名無子は何も言わずに黙って俺の後をついてきた。
しばらくそのまま放っておくものの、いつまでたっても俺の後ろから名無子の気配はなくならない。

どこまでついてくるつもりだ?

俺は心の中で苛立たしげに舌打ちすると、一気に駆けだした。
今まで歩いていた村道を勢いよく蹴りつけ、木の枝に飛び上がる。
そこから全速力で疾駆する。
このまま撒いてしまおうと思った。
そう思って樹上を次々跳んでは駆け抜けていくのに、名無子はあきらめることなく、俺の背を必死に追い続ける。
埒が明かないとはこのことだろう。
俺がどれだけ走る速度を上げたところで、アイツはあがる息さえ気にかけず、ひたすら俺を見逃すまいと追いすがる。
そんな追いかけっこを延々繰り返し、どれくらい走っていたのか。
いい加減しびれを切らした俺は、樹上にバッと立ち止まり、名無子を振り向いた。

「なんでついてくるんだ! お前はもう里に帰れ」

向かいの木の枝からこちらを真っ直ぐ見つめる名無子がその瞳に強い意志を乗せて一言告げる。



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