With
episode.23 (ページ1/4)
必死に走った。
涙で歪む視界を振り切るように、私は必死に走って辿りつく。
桜の木が一本生えている丘の上。
私とヤマトが初めてカカシ先輩に出会った場所だ。
理由なんてなかった。
なんでこんなところに来たのかなんてわからないけど、夢中で走っていたらここに来てしまっていただけのことだ。
小高い丘の頂上では一本しかない桜の木が私の気持ちになど全く関係なく、ピンク色した花を溢れるように咲かせて、幸せな春を謳歌している。
ひとひら、ふたひら、花びらが散るその中を、私は息を切らしたまま桜に近づき、その幹に手をついた。
カカシ先輩――。
『お前はアイツを大事にしろよ、俺じゃなくて!!』
耳に残る先輩の怒鳴り声に次から次へと涙がこぼれる。
わかってる。
カカシ先輩が私のこと、なんとも思ってないことくらい。
わかってる。
ヤマトを大事にしなきゃいけないことくらい。
わかってる。
でも、それでも、わたしはカカシ先輩が好きで。
アナタじゃない他の誰かを大事にすることなんてできなかったんだ――。
私は幹についた手をグッと握りしめた。
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