With
episode.40 (ページ3/4)
おそらくソイツはこのまま逃げ出そうとするのだろう。
私はそんなことには目もくれず、ベストのポケットから巻物を滑り落とし、歯で親指を噛み切るや、その巻物を躊躇なく開いた。
中の白い紙面に赤い血をぬりつけ、
「口寄せの術!!」
巻物ごと地面に手を押しあてた。
ボッと現れた煙、その中心から低いうなり声が響く。
徐々に薄らぐ紫煙から、私の使役する雪豹、雪牙が姿を現した。
永遠に閉ざされた潰れた左眼。
いびつな黒の円模様を散らした体はキレイな白銀だ。
右目は不機嫌そうに細められ、異様なギラつきとともに私を睨み、黒い口元から鋭い牙をのぞかせる。
3m近くある体躯から地響きを思わせる声が発せられ、私の体を威圧した。
「何の用だ、名無子」
「雪牙、頼みがあるの」
私の言葉に、雪牙の目が抜け目なく光る。
「見返りはなんだ。ようやくお前を食らえるのか?」
雪牙はいつもこうだ。
契約者である私のことを常々食い殺そうと目論んでいる。
私は雪牙につけこまれぬよう、一抹の怯みも見せずに答える。
「違うわ。そんな見返り、あるわけない。それより早く敵の忍を追って仕留めてきて。お願い」
私は先ほどまで対峙していた敵忍を雪牙に追わせようとしていた。
(ページ3/4)-152-
←|→ backselect page/164