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episode.36 (ページ1/4)

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置いていけるわけないだろう?
お前のことを――。

夕飯のためにおこした火のまわりにはアイツが食べ終えた甘夏の皮がキレイに散らかっている。
そのそばでは名無子が横になり、静かに寝息を立てていた。
俺は火越しに名無子の穏やかな寝顔をじっと見つめた。
俺がいなくなっただけであんな必死に俺を探して、俺がいるだけでこんなにも安心しきった顔を見せる。

わかってるのか、お前は。
そんなひたむきな顔をされたら、俺はお前の知ってる優しい先輩じゃいられなくなるんだぞ?

本当は名無子を置いていこうかとも思った。
正直、トイレに立つ振りをして、このままひとり、油隠れの里に向かってしまおうと思わなかったわけじゃない。
どう考えてもそのほうが正解なのは明白だ。
俺と一緒にこんな無茶な任務に就いて、無駄な死体を増やすことはないのだから。
けれど、足を踏み入れた森の中で、俺のつま先に当たった物が自分の気持ちを見事に揺らした。
俺がコツリと蹴り飛ばしたモノ。
それは、甘夏の実だった。
俺は足元に落としていた目を頭上に向けた。
目の前に立つりっぱな木の枝にいくつもの実が闇色に染まりながらも淡い黄色を放ってみのっている。
その様子に俺は瞳を細めた。

『それにしても、サザンカ、お前、スゴイねぇー』

そんなことを言って名無子をからかったのは、アイツとヤマトとはじめて暗部の任務に出たときの夕飯だった。
全身が返り血に染まるほど戦ったあとの食事で名無子は焼き魚を一口も食べられずにいたんだ。
きっと過去の任務でそこまでの死闘を経験してこなかったのだろう。
過酷な戦いが衝撃過ぎて、食べ物がのどを通らなくなったに違いない。



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