With
episode.35 (ページ5/5)
カカシ先輩は地面に落ちている残りの甘夏も拾い、腕に抱えた。
「あんまり食欲ないみたいだったからな。採ってきたんだ」
先輩――。
暗部の初任務のときもこうだった。
人の血の臭気にやられ、何も食べられずにいた私を見て、カカシ先輩は今みたいに甘夏を採ってきてくれた。
それを私が勢いよく食べまくり、笑われてしまったあの日。
あんな小さな出来事をこの人は、ずっと覚えていてくれたのか。
気遣いのひとつひとつ、言葉のひとつひとつが、どれもひどく嬉しくて、また泣きだしそうになる。
そんな私を先輩はいつものように私の大好きなあの笑顔で見つめる。
「こらこら、泣かないの。名無子に泣かれると俺が困るでしょ?」
その言葉にしゃくりあげるようにして涙を引っ込め、見上げると、カカシ先輩が何か言いたげに身じろぎし、再び腕から甘夏がコロリと転がった。
「あ」
私は急いでかがみこむ。
「さぁ、戻るぞ」
甘夏を拾っている隙に、先輩は私に背を向け、歩きだしてしまった。
「せ、先輩……待って」
地面に落ちた甘夏を手に、私は慌ててその広い背中を追いかけた。
to be continued.
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