With
episode.35 (ページ4/5)
すると、
「名無子?」
名前を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、近くの木から何かが飛び降りる気配がした。
その気配に目を向ければ、視界に映る長身のシルエット。
見間違うはずのない相手の姿に、涙腺が勝手にゆるんでいく。
「カ……カカシ先輩……」
駆けよって、先輩の左腕にしがみついたとき、足元にボトボトと何かの転がり落ちる音が響いた。
「お、おい、名無子? どうしたんだ? ちょ……お前、泣いてるのか?」
「先輩が戻ってこないから、私、置いていかれたんじゃないかって……。そしたら急に不安になって……」
涙目で懸命に告げる私を見つめて、カカシ先輩は暗がりの中、とっても優しい顔をした。
「お前を置いていったりしないよ」
カカシ先輩……。
無理やりついてきた私を許すようなその言葉に、私の心がトクンとうなる。
カカシ先輩の大きくて温かい手が私の頭をポンポンと叩き、
「なかなか戻らなくて悪かったな。これを採ってたんだ」
カカシ先輩は先ほど腕から落ちた何かを足元からひとつ拾いあげた。
「お前、好きだったろう?」
先輩に差し出されたそれを受け取り、呟く。
「甘夏……」
「そ。甘夏」
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