HALF.
episode.32 (ページ1/3)
木の葉の里の片隅、住宅が密集する中に小さめのニ階建アパートが建っていた。
そのニ階部分の一室で10歳に満たないくらいの女の子が泣いている。
部屋の真ん中で女の子座りして目をこする少女は7年前の名無子の姿だ。
夕日の光が差し込む部屋でひとり寂しく涙を落とす。
その姿をバルコニーから覗きこむ者があった。
「また泣いてんのか、名無子?」
窓をガラッと開け、声をかけてきたのは、ロシアンブルーのようにキレイなグレーの髪を持つ少年、エイシンだ。
エイシンはバルコニーに靴を脱ぎ捨て、部屋にズカズカあがりこむと、名無子の頭をググッと撫で、彼女の前にあぐらをかいた。
「泣くなって。どうした? 今日も病院で誰か亡くなったのか?」
「うん……。先輩の患者さんだけど、私が身の周りのお世話をしてて……」
エイシンを見上げた名無子の瞳から涙がボロボロ溢れだす。
エイシンは困ったように眉間にしわを寄せ、名無子の頬をぬぐってやった。
「だから泣くなって。大丈夫だ、今は無理でも、お前ならそのうちきっといろんなヤツの命、救えるようになるから。な?」
「そぅ……かな?」
「俺が言うんだから間違いねーよ。信じろ」
エイシンは名無子の顔を覗きこみ、ニッと笑いかける。
名無子はコックリと頷いた。
握った拳で目をこすり、その瞳からは徐々に涙が引き始めた。
名無子の正面ではエイシンが根気よく沈黙を守り、彼女が泣きやむのを優しいまなざしで待ち続ける。
ようやく名無子の瞳から涙の粒がこぼれなくなったのを見て、エイシンは勢いよく立ち上がった。
「よーし! じゃあ行くとするか。うちで父さんも母さんも待ってんだ。飯食いに来いよ」
左手を膝に置き、前かがみで右手を名無子に差し出す。
「うん」
まだちょっと潤む瞳でエイシンを見つめながら名無子がその手をきゅっと握った。
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