HALF.
episode.19 (ページ3/7)
俺の目の前で黒くて丸い塊が動いている。
黒くて丸いコロンコロンした影。
子グマ、だった。
その子グマが俺の手にフンフンと鼻息をかけ、猛烈にジャレついてくる。
「ちょっ……やめぃ、俺は今お前と遊んでるヒマはねぇーんだよ、な?」
俺が軽く押しのけても子グマは一向に言うことを聞かず、俺の手を前肢でぺシぺシやりながら後肢で腕にしがみつき、ぶらさがろうとする。
とにかく妙に纏わりついてくる、俺の手に。
俺の手に?
ふっと湧いた疑問に首を傾げ、俺は子グマを注視する。
そこでようやく気付く。
子グマがジャレているのは……そう、俺の手じゃない。
カギ、だ。
その証拠にカギを持たない逆の手には子グマはちっとも興味を示していない。
「なんでこのカギにそんなに反応するんだよ、お前?」
こんなカギ、名無しの匂いくらいしかしねぇー……。
心の中で呟いた言葉の途中で、俺の脳裏に以前見た光景がパッと浮かびあがる。
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