HALF.
episode.42 (ページ2/3)
名無しの背中が揺れた。
「私、また救えなかった。エイシンの命を救ってあげられなかった」
サワッと風に吹かれた頭上の木の葉がまるで名無しの泣き声みたいに聞こえる。
俺の視線は名無しの背中に吸い込まれ、そこから微動だにしなかった。
お前はこんなに泣きながら頑張ってきたのか――。
いっつも滅茶苦茶してばっかで余裕な顔であらゆる症状を対処してくれる名無ししか見てこなかった。
なんて奴だって思わされる名無ししか見えなかった。
でもその裏で、その心で、
お前はこんなに泣いてたのか。
目の前の名無しの後ろ姿があの小さな女の子と全く同じ背中をしていて、俺の中に愛しいって想いが溢れだす。
泣かない強さを手に入れて、立派な医療忍術の腕を手に入れて、それでもお前はあの頃の気持ちと何も変わっちゃいねぇーんだな。
小さな背を凝視する俺に名無しが妙に通る声で呟いた。
「いつも思うんです。なんで私が死なないで他の命が消えていくんだろうって。自分は普通に生きてるのになんで助けられない命があるんだろうって。ねぇ、隊長。どうしてかな」
「――――」
イケてねぇー俺にはこんなふうに泣く名無しにかける言葉なんか何も思いつきやしない。
でも代わりに俺はどうしようもない衝撃と抑えようのない愛しさに弾かれて名無しを背中から抱きしめた。
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