HALF.
episode.40 (ページ6/6)
血飛沫を浴びて真っ赤に濡れた名無しが死にゆくエイシンの体を一途に捕まえようとする姿に俺の胸がギリッと締めつけられる。
俺はそれを見ていられず、名無しのそばに近寄り、ひざまずくと、エイシンの傷を押さえる赤く染まったその手をそっと掴んだ。
「やめろ。もう……助からねぇ」
俺の声にビクッと震え、#名無しのまわりに沈黙が舞い落ちる。
名無し……。
何を言ったらいいのかなんてわかんねぇー。
けど、それでも何か言葉をかけようと俺が口を開きかけたとき、突然、
「うわあぁぁぁぁぁーー!!」
名無しの叫び声が轟いた。
これでもかって言うほどの叫声が森と空をそこに接する空気ごと震わせる。
涙なんか流しちゃいねえーのに、俺の目には名無しが死ぬほど泣いて見えた。
顔を空に向け、天を仰ぎ、体の中心から大声を張り上げる名無しはありったけの絶望をこの世界に向かって吐き出しているみたいだ。
自分の無力さに、自分の弱さに、潰れないようにと懸命に。
と、その姿に、俺の中で何かがハッと弾けた。
なんの繋がりもありはしない俺の記憶がどういうわけか急に脳裏に浮かび上がり、眼前で叫ぶ名無しの上に重なった。
病院の裏庭の片隅、いつも泣いてた女の子。
あの子の姿が目の前の名無しに重なって見えたんだ――。
to be continued.
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