episode.36 (ページ4/4)
bookmark?――名無し。
一瞬の映像に俺の意識がハッとする。
あぁ、そうか。
コイツ、本気なのか。
本気でアイツのこと、連れていきてぇーのか。
俺の頭をさっき名無しから聞いたばかりのふたりの幼馴染談が走り抜ける。
両親を失くして、一人ぼっちになった名無しを支えて、医療忍者の見習い中、泣いてばっかの名無しを励まして、人を殺せない名無しのために新術を考え、教え、そうやって積み重ねてきた時間の中で、エイシンは名無しを理解してきたんだ。
それを俺が、『俺も名無し同様、誰一人死なせる気はねぇーからさ』なんて言ったから。
名無しのことを知ったような口きいたから。
それでコイツは、こんなに必死になってんのか。
悔しくて――。
そう、悔しくて、だ。
エイシンからしてみたら、俺なんかちっとも名無しを理解しちゃいないって思うんだろう。
そんな俺が今、自分よりも名無しの近くにいて、しかもわかったふうな口を叩いたんだ。
ひどい悔しさが生まれるのも当然だ。
エイシンの踵が肩先をかすり、慌ててそれを払いのけた。
自分の大事な過去を守ろうとするようなエイシンの思いが俺のまわりに溢れて胸が息苦しい。
でも、悪ィーけど。
俺はエイシンに精いっぱい反発した。
俺だって渡せねぇーんだよ。
たいして一緒に過ごしちゃいねぇーけど。
そんでも俺にとってコイツは俺の命預けちまうくらい、もう充分大事な存在に、なっちまってるんだよ――。
俺の心の中にそんな声が満ちあふれていた。
to be continued.
(ページ4/4)
←|→
back