HALF.
episode.36 (ページ3/4)

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生い茂る緑の中に消えたエイシンが、ややあって再びその姿を現した。
首を左右に傾け、こちらに歩いてくる様子はどこまでも余裕の塊で、俺だけひとり嫌な汗を背中に流している感じだ。
唇をかみしめた俺にエイシンが口元を歪ませ微笑んだ。

「せっかく俺を捕まえたのに離しちまっていいのかよ?」
「臨機応変て言うだろ。こんでも一応、仲間の命預かる身なんでね、その辺、柔軟に行かねぇーと大変なことになっちまうんだよ。俺も名無し同様、誰一人死なせる気はねぇーからさ」

俺の言葉を聞いたエイシンが一瞬悔しげな色を瞳に浮かべ、その後、初めて本気で俺を睨みつけた。
その真っ直ぐな目に思わずゾクリとする。

「軽々しくソイツのことわかったような口聞いてんじゃねぇよ」

低く吐き出したエイシンが俺目がけて走り込む。
その攻撃は今まで以上にスピードと重みが増し、俺の防御がついていかないほどだ。
膝蹴り、正拳など体術を基本に攻められる中で唯一、電撃を繰り出されないことが救いと言える。
だが、それも代わりに使われる忍術によって帳消しでもあった。
エイシンはめくるめく攻撃の合間に印を結び、俺の体を水遁水牢の術で封じ込めようとしていやがった。

クッソ、水牢の術なんてきったねぇ真似しやがって!

体のあらゆる部分にエイシンの肘や足を叩き込まれ、それでもなんとか水遁につかまらぬよう逃げおおせる。

それにしたってコイツ、何をこんなにムキに……。

先ほどまでの余裕は消え失せ、いきなり殺気だったエイシンを見つめ、必死に攻撃をよけていく。
その俺の視野に俺たちの戦いを野原の端から苦しげに、けれど決して目をそむけることなく注視する名無しの姿が掠めた。



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