HALF.
episode.32 (ページ2/3)
名無子のアパートを後にしたふたりは、そこから一分と離れていない距離の一軒家に駆けこんだ。
玄関でドタバタと靴を脱ぎ、リビングに足を踏み入れる。
「ただいまぁー」
温かな光溢れるリビングにエイシンの声が響いて、30代半ばの女性がテーブルの傍らからパッとこちらを振り向いた。
「お帰り、エイシン。名無子ちゃんも来たわね、待ってたのよ」
「こんばんはぁ」
微笑みかけてくれたのはエイシンの母親だった。
その優しい笑顔に名無子もニコッと挨拶をした。
ここはエイシンの家である。
一年前は名無子もこの隣の一軒家に住んでいたのだが、両親を亡くし、一人になってしまった名無子はここからほど近いアパートにその居を移した。
しかし引っ越してからもエイシン一家は幼いうえに身寄りのない名無子のことを気にかけ、実の娘のように面倒を見てくれている。
食事などはほとんど毎日厄介になっていた。
エイシンのお母さんは名無子を手招きすると、テーブルの上に置いてあったお皿を手に取り、ほら、と名無子に差し出した。
「見て、コレ、名無子ちゃんのために作ったのよ。どう?」
エイシンと手をつないだまま、名無子がお皿を覗きこむ。
そこにはできたてのオムライスが乗っていた。
わざと丸く作られた黄色いオムライスは卵の上にケチャップでニッコリ笑った顔が描かれ、周りには同じくケチャップで花びらが縁取りされている。
「スゴォーイ!!」
「名無子ちゃん専用特製ひまわりオムライス。気にいってくれたかしら?」
満面の笑みでコクコク頷く名無子にエイシンのお母さんは嬉しそうに笑いかけ、今度はエイシンに声をかけた。
「で、こっちがエイシンのね」
「俺のも何かあるのかよ?」
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