HALF.
episode.21 (ページ2/3)
俺は首を後ろに向けてみる。
「……ん……」
名無しは声を発するもののまだ起きた気配はなく、無意識のままなのだろう、ゴニョゴニョと何かを口走っている。
途切れ途切れで聞き取りにくい呟きだったが俺の耳にはちゃんと届き、その聞こえた言葉の内容に俺は思わず微笑んだ。
『大丈夫でスか? 発作、落ち着きました?』
俺の背中で名無しは心臓発作のフリをして自分をだました女のことをいまだに心配しているようだ。
「ホントお前、バカだな。だまされてたんだよ」
そう言ってバカにしながらも笑みがこぼれてしまうのは、それがきっとコイツらしいから、だまされてても気づかずに容体のことを心配する姿がひどく名無しらしいからだ。
俺は背中の重みをそっと背負い直す。
そうなんだ。
やることなすことすげぇムチャクチャで腹立つことばっかで、どうしようもねぇバカだけど、でもほんの少し、ほんとにほんとにほんの少しだけ、生きてるものを救おうとするときのコイツには、あるかないかわかんねぇーくらいほんのちょっとだけ、誰にもバカにできねぇー尊厳が姿を現す。
そして、それをバカにする奴がいると、俺は無性に腹が立つんだ――。
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