take me out
Boy's side-33 (ぺージ1/3)
「ただいま」
「邪魔するぜ」
「どーぞ」
名無子の後について、以前入ったことのある名無子の部屋に俺は再びあがった。
主がしばらくいなかった部屋はさすがに空気が悪くて、
「窓開けんぞ?」
「お願いします」
俺は手にした荷物を床に置くとバルコニーに面したでかい窓を開けて、外の空気を入れた。
湿気は含んでいるものの、部屋に流れ込む風が気持ちいい。
振り返ると、名無子もベッドの近くの窓を開けていた。
その横顔が、久々に家に帰ってきてホッとしている。
俺が窓にもたれて見つめていると、名無子はベッド脇のサイドテーブルから写真立てを手に取った。
写真なんか飾ってあったか?
前来た時は全然気付かなかった。
俺は名無子に近寄って、肩越しにそれを覗き込んだ。
写真の中では、今よりあどけない名無子と二人の男が笑ってる。
「親父さんと兄貴?」
「うん、そう」
それを元の場所に戻すと、名無子はもう一つ別の写真立てを取り上げた。
「これは母上」
そっちにはやんわりほほ笑む女性の姿が写っていた。
みんな、もういねぇなんて信じらんねぇ。
写真の中の三人はあんなに元気に笑ってて、今にもどっかから現れそうなくらいだ。
でも、いないってことを信じらんねぇのは俺以上にコイツなんだよな。
写真の中で無邪気に笑う名無子と今ここにいる凛とした眼差しの名無子。
そのギャップはきっと、現実を受け止めようとしたコイツの痛みの深さなんだろう。
うまい言葉なんか見つかんなくて何も言ってやれねぇーけど、それでもそばにいる俺の存在をお前に感じてもらいたくて、俺は目の前にある名無子の頭にポンと優しく手をのせた。
本当は後ろから抱きしめてぇとこなんだけど。
そんなことを思っていると名無子がこっちを振り向こうとして、俺は思わず焦った。
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