take me out
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「なぁ、名無子、丁寧語で話すのやめね?」
すべては俺のそんな一言に始まった。
「え?」
自室の床でクッションの上に女の子座りしていた名無子が背の低い小さなテーブルの向こうから首を傾げて俺を見る。
「いや、お前いつも俺に丁寧語使うだろ? それ、やめてみねぇかって言ってんだよ」
「何か不都合ですか?」
「不都合ってことはねぇーけど」
俺は自分を真剣に見つめる名無子の目からテーブルの上に視線を落とし、頬を指で掻いた。
「付き合ってんだし、タメ口でよくね? そのほうが……」
「そのほうが?」
「お互い距離も縮まんだろ」
って、何言ってんだ、俺?
言いながらなんか妙に恥ずかしくなってきた。
俺は今日、夕方早々に任務を終え、休みだという名無子の部屋に寄っていつものように二人でまったりと過ごしていた。
そのときにふと思ったんだ、タメ口で話せたら名無子をもっと身近に感じんのかなって。
別に深い意味があったわけじゃねぇ。
ほんと何の気なしに軽い気持ちで告げただけの言葉だった。
でも、それはいざ口にしてみると、その実、とてつもなく甘い内容だったと思い知らされる。
ったく、まいったな、めんどくせぇ……。
頬どころか頭を掻きむしりたい気分にさせられ、身の置き場に困った。
しかし、そういういたたまれなさはどうやら名無子も同様らしい。
すっかり顔を俯かせ、額にかかる前髪の下では朱に染まった頬が覗いている。
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