take me out
happy (ぺージ6/12)

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ブリキのバケツを左手に持ち、右手はポケットに突っ込んで、河原に続く道を歩いていく。
俺の半歩後ろから、花火セットを手にした名無子が静かな足取りでついてくる。
秋を感じさせる、ちょっと高みの増した空には星が瞬き、その下を行く俺らのまわりを僅かに冷気を含んだ風がゆるやかに吹き抜けていく。
その風が辺りに生えるススキを揺らし、微かに音を立てた。
そんな風景の中、俺らは途中で、道沿いに位置する茶店に立ち寄った。
店外の席に座り、あたりの景色に目を向けながら簡単な食事を済ませると、俺たちはその後ようやく目的の川原に辿りついた。





川べりのところどころで、黄金色したススキの揺れる姿が目に入る。
秋の色に染まる夜気に包まれ、俺たちは季節外れの花火を始めた。
岩の上に立てたろうそくの火で、名無子が持ってきた手持ち花火を点火する。
暗い河のほとりで、パッとあでやかな光が生まれた。
赤や青、緑や黄色、紫の様々な色をまとった炎が、俺らの手の中で次々と生まれては消えていく。
赤い火花を散らすように燃えるもの。
シューと音をあげながら緑の炎をまっすぐ吐き出し燃えゆくもの。
肌に感じる秋の寂寥感が、真夏の夜に散る花火よりも、その儚さをいっそう際立たせる。
俺は、横にいる名無子にちらりと目を走らせた。
暗がりで花火の炎色に照らしだされた名無子の横顔はいつもより大人びて見える。
そのくせ、この花火の炎が消えた瞬間、一緒にかき消えてしまいそうな心もとない揺らぎを感じて、ひどく胸が締めつけられた。
自分を凝視する視線に気づき、名無子が俺に顔を向ける。



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